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EMSでダイエットをする前に知っておきたい大切なこと

ここのところ立て続けにEMSについての問い合わせをいただきました。

EMSでインナーマッスルを鍛えれば代謝が上がると聞いたらしく、ダイエット(減量)のために利用したいとのこと。また、EMSのみをご希望で、身体を動かす種類のトレーニングを行う気は無いようでした。

このような場合、「EMSを施術の一環として使用していますが、EMSのみでのダイエットは効果の面からお引き受けできかねます。」と、申し上げ、予約をお断りすることにしています。

今回はその理由について、詳しくお示しできればと思います。
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目次

じねん堂でEMSを使用するとき

じねん堂では伊藤超短波社の低周波および中周波治療器2台を、EMSとして使用しています。コンパクトで使いやすいのが選択の理由です。

これらの機器を使用する目的はふたつ。

 

ひとつは循環の改善のため。

EMSで利用される周波数には筋肉を強く収縮させる特性があります。これを用いて収縮と弛緩を繰り返すことで、筋肉のポンプ作用による血流の促進を図ります。また、筋肉をほぐす作用も期待できます。

 

もうひとつは、運動療法の補助として。

筋萎縮の防止を期待して行うこともありますし、筋肉が弱っていたり動かし方を忘れてしまっていたりした場合に、力を入れるべき筋肉に電気刺激を与えながら利用者自身に動かしてもらうことで、促通を図ることもあります。

 

以上のように、筋肥大や脂肪燃焼を期待してはいません。

過去には、筋肥大を目的として、高重量のスクワットで追い込んだ後に加圧トレーニングでレッグエクステンションとレッグカールを行い、最後にEMSで追い打ちをかけていたこともありますが、EMSの途中で酷く足が攣ったり、甚だしい筋肉痛に見舞われたりしてからは使っていません。アレはやるものではないです。

 

EMSトレーニングを導入しないに至った直近のできごと

じねん堂では、一昨年の年末にトレーニング目的でEMS機器の追加導入を検討していました。
別件でお世話になっていたLIGUA(リグア)社でも、indepth(インデプス)というEMS機器を取り扱っていて、営業さんから、「当該機器を用いた研究において被験者の代謝に上昇がみられ、学会発表もなされた」ということを聞き、興味が湧いたからです。

 

【令和2年1月16日編集】
この引用部分にはindepth導入院がホームページ等で使用していた“学会発表されたデータを基にした基礎代謝の上昇”に関するPR文を掲載していましたが、リグア社からの要請により削除しました。

景品表示法・薬機法などのコンプライアンスの関係で、現在は学会発表されたデータの内容を掲載する形でのPRは行っていないとのことです。
下の方にも書いていますけれど、リグア社はほんとう、ちゃんとしてますよね。

 

要約すると、藤本ら(2014)の発表を引用して、“indepthを継続使用した際の基礎代謝が使用前と比べて上昇した”としています。

基礎代謝とは、安静にしていても生じる、生命維持などのために必要なエネルギー消費のこと。筋肉による消費が20%程度を占めています。

もし、EMSトレーニングによって筋肉量が増えた結果、基礎代謝が増加したのなら、本当にすごいことです。

 

なぜなら、筋肉が1キロ増えても基礎代謝は13kcalしか増えないから*1 。

 

●●●●●(PRの内容.令和2年1月16日上記理由により削除)なら、indepthによる20回の施術で少なくとも6キロは筋量が増加していることになります。

我々がウェイトトレーニングで筋量を1キロ増加させるのにどれだけ苦労することか…。

 

さらに興味が湧いてきたので、元の論文を確認することにしました。

かくして取り寄せた論文(残念ながら抄録)。

目を通すと、そこには“施術中のエネルギー消費量を算出した”との記載が*2 。

 

施術中のエネルギー消費量?

基礎代謝はどこへいった?

 

何やら雲行きが怪しくなってきたのを感じ、これは真実を確かめねばと、リグア社の担当者に無理をお願いして、論文の内容を細かく教えてもらうことにしました。

するとやはり、研究で分かった効果としてPRしている基礎代謝とは、EMSで刺激している最中の代謝量だったのです。1回に30分間、我慢できるギリギリの強さで刺激している最中の!

腹部のEMSを寝転んで行えば、見た目は確かに安静にしている様に映ります。しかし筋肉が電気で強制的に動かされているので、その分、何かしらの代謝増がある。つまりはそういうこと。実際には基礎代謝ではないのです。

 

しかも増加するのは80kcal弱!

 

参考までに、体重60キロのかたがウェイトトレーニングを30分行って消費されるエネルギーは189kcal。ノルディックウォーキングを速いペースで行えば、299kcalにもおよびます。(消費カロリー=METs値×時間×体重(kg)×1.05, ウェイトトレーニング:6METs, ノルディックウォーキング(速いペース):9METs)

歩いた方がよっぽど効率が良いのです。

 

さらに、「長期使用での基礎代謝のデータはありません」とのこと!

ウェイトトレーニングなら筋肥大による真の基礎代謝量増加を期待できますし、トレーニング後はしばらくの時間、体脂肪をエネルギー源とする要求が高まりますから、そのタイミングでノルディックウォーキングをすればさらに効率よく脂肪を燃焼させることができます。

より効果的で効率的な方法でのエネルギー消費や筋力増強・脂肪減少を行えるかたが、たかだか80kcl弱のエネルギーを消費するために、我慢できるギリギリの強さの刺激に30分間耐えなければならないなんて。1回数千円の料金を払うだなんて…。(しかも24回以上の継続が“オススメ”らしいです)

それが苦痛と価格に見合う行為なのか。はなはだ疑問です。

 

結局。

「これ、動ける人は普通に運動した方が効果が高いですよね?」

「そうですね。先生のところの方針とは、合わないかもしれません。」

このようなやりとりをして、じねん堂ではindepthを導入しないことになったわけです。

リグア社の、都合の悪い情報でも求めに応じて開示する真摯な姿勢には頭が下がります。

 

■ インナーマッスルについて
indepth導入施設はインナーマッスルが強化されることも強調していました。インナーマッスルを鍛えた方が、アウターマッスルを鍛えるよりも基礎代謝が上がるのだそうです。
私はこの手の“インナーマッスル至上論”には賛同しかねます。
一般的な筋力トレーニングをさして、「アウターばかり鍛えられるからダメ!」とか、低周波を利用したEMSを指して、「インナーに刺激が届かないからダメ!」などという言説も散見されますが、そもそも、両者が協調して働くことで様々な動作をスムーズに行えるようになるのですから、何かしらの障害でもない限り、インナーだけを抜き出して云々というのはナンセンスなのではないでしょうか。
正しいフォームでスクワットやデッドリフトをすれば、アウターもインナーも動員されてきますからご安心ください。
この点は、EMS導入とは関係なく、主張したいところです。

 

EMSに関する別の報告と個人的な解釈

それでもEMSを諦められないかたに、“あの”スレンダートーンを用いたポーカリらの報告*3 を、indepthの件と絡めて紹介します。

 

この報告は…

24人の成人を対象に、8週間、週5回、1回40分(徐々に時間を伸ばしながら)、耐えうる最大の強度で腹部を電気刺激した結果、刺激しなかったグループに比べて、筋力および筋持久力が向上し、ウェストの周径が減少した。
体重、BMI、皮下脂肪厚には変化が無かった。

といったもの。

 

トレーニング時間はindepthを用いた報告よりも10分長く、回数は2倍となっています。また、整骨院等が推奨するEMSのトレーニング頻度が週2~3回ですので、はるかに高頻度のトレーニングであったと言えます。

体重と皮下脂肪厚(体脂肪率)が変化していないということは、徐脂肪体重の変化も無かったということです。つまり、筋肉量に変化が無かったことを示唆しています。

それぞれ同量の内臓脂肪が減って筋肉が増えたと推論するかたもあるかと存じますが、はたして24人全員に都合よく、つりあいの取れた内臓脂肪減少と筋量増加が起こるものなのでしょうか。

お腹の筋肉の厚さや組成の変化をMRIなどで測定したら良かったのにと感じます。

筋力の向上は、電気刺激によって大きな範囲の多くの筋肉を同時に収縮させることを繰り返したため、一度の収縮に参加する運動単位数(筋肉の数)を増やすことができたためでしょう。「せーの!」で、多くの筋肉を動かす能力が向上したわけです。

筋持久力に関しては、やはり、トレーニング頻度と持続時間の影響かと思われます。

では、体重や皮下脂肪厚に変化が無かったにもかかわらずウェストの周径が減ったのは何故か。

計測のタイミングについても論文には記されていませんが、もしトレーニング直後に測定していたとしたら、長時間の電気刺激によって、刺激直後も腹に力を込めて凹ませたような状態になっていただけかもしれません。

 

したがって、EMSでは脂肪は燃焼せず、また、大幅に筋量が増すとも考えにくいので、(EMS施術時以外の)基礎代謝の増加も無いと考えるのが妥当ではないかと思います。

 

「うちのEMSとは刺激周波数が違う。低周波のスレンダートーンと一緒にするな。高周波の方が効くんだ!」などと、言いだす人がいそうですね。

しかし、高周波の装置も低周波の装置も、筋肉を収縮させるために利用する周波数に大した差はありません。一般的に20Hzと言われています。高周波の場合は、ふたつの異なる周波数を干渉させて、20Hzの周波数を発生させることになります。

高周波を用いる装置は「電気刺激の届く深さ」を“ウリ”にしています。低周波は皮膚から3ミリの深さまでしか届かないなどと記述されているサイトまでありますが、もしそれが本当だとしたら、少し太めの人は皮下脂肪が邪魔で肩の筋肉にさえ低周波が届かないことになります。

 

そんなことは無いですよね。

 

家電量販店に売っているような低周波治療器であっても、筋肉に電気刺激を到達させ、収縮せしめることが可能です。

スレンダートーンの公式サイト内の「メカニズム」のページには、低周波の装置を用いた刺激でもお腹のインナーマッスル(腹横筋)を収縮させることができるといった報告があります。となれば、高周波を用いてまでそれ以上深く電気を届ける必要は無くなります。

 

皮膚への刺激感が少ないことは、たしかに高周波を用いた装置のアドバンテージです。実際にいくつもの機器で自らの身体に通電してきた経験上、これが一番大きいと感じます。とはいえ、低周波を用いた装置でも、ウォーミングアップしながら徐々に出力を上げていけば筋肉に強い収縮感を得られるようになります。

ですから、機器の違いは実験の結果にそれほど影響していないのではないかと思われます。

 

少なくとも2か月程度のEMSトレーニングでは、筋肉量の増加も体脂肪の減少も起こらないようです。

 

導入治療院に思うこと

ここで話を元に戻すと、整骨院が使っていた“基礎代謝が使用前と比べて”という表現。
明らかに間違いなうえ、「EMSによるトレーニングによって筋肉量が増えた結果、基礎代謝が増加する」と、誤解をあたえかねないものですよね。

ここまで読んでくださったのならお気づきかもしれませんが、機器の取り扱い業者は、売る相手(施術者)に嘘をついてはいないのです。関与した論文に書いてある通りのことしか言っていないし、その論文も手に入れることができる。宣伝のために都合の良いことを前面には出していますが、ちゃんと疑問をもって聞けば答えてくれるのです。

罪なのは施術者

利用者と業者との間にあって、直接利用者にEMSを勧める施術者が、誤解を与えるような表現で宣伝をしているのです。

 

整骨院業界で横行している違法な保険マッサージに対する締め付けがきつくなってきた昨今。
ここ三重県津市近辺でも、保険治療に限界を感じた整骨院が自費治療による収益を確保する手段として、基礎代謝増加やインナーマッスル強化を謳い、続々とEMSを導入しているようです。

新しい機器や手法を導入する際には、効果について裏付けを取り、利用者・施術者双方にとっての利用価値を判定するのが責務だと私は考えています。その結果、弊院ではindepthを導入しないことになったわけです。

 

逆に導入している施設ではどのように考えてのことなのか。

効果を理解したうえで利用価値ありと判断したのか。あるいは「基礎代謝」の意味も分からないまま、儲かりそうな話に飛びついたのか。

前者であれば、そういう経営方針なのですから、文句を言う気はありません。うちとは考え方が違うというだけ。

しかし後者であったなら。スポーツ・フィットネスの分野に関わる者として、そして医療従事者(広義)として、とても残念に思います。

 

EMSトレーニングを検討しているのなら実行したいこと

先ずは単純に、ご自身が持った疑問をぶつけてみましょう。疑問が浮かばないのであれば、このエントリーを参考になさっても構いません。

 

筋肉が増えて基礎代謝が増えるの?

脂肪が燃焼するの?

普通に30分運動する場合と比べてどうなの?

根拠はあるの?

 

「基礎代謝が増えるっていう論文がでている。」と、言われたなら、具体的にその論文のどこを根拠に効果を謳っているのか、聞いてみてください。私は、今回紹介した二つの報告からは、筋肉が増えたり体脂肪が減ったり、基礎代謝が増加したりといった効果を見出すことができませんでした。EMSの研究は方々でなされていますので、別の論文を根拠にしている場合もあるかもしれません

 

次に、利用するとなったら貴重な時間とお金とを使うわけですから、施設の者の言うことを鵜呑みにせず、ご自分でもしっかりと調べてみることをお勧めします。肯定的な意見も否定的な意見も、インターネット上にはたくさん転がっていますし、学術論文も容易に見つけることができるはずです。

 

そして、対応してくれるかどうかは分かりかねますが、機器を取り扱う業者に直接問い合わせするのも一つの方法です。

弊院の近隣(三重県津市)で導入されているインナーマッスルをターゲットにしたEMSトレーニング機は、リグア社のindepthやエスケア・ジャパン社の楽トレあたりです。

あと有名なものでは、テクノリンク社のテクトロンシリーズ、アルファトリニティ社のプロテクノシリーズ、弊院でも使用している伊藤超短波社の製品が挙げられます。テクトロンシリーズを用いた痩身商法は、結構以前からありましたし、テクノリンク社はエステ用の機器も製作しています。エステや一般向けならば、伊藤超短波社の製品もメジャーですね。オークションサイトに沢山出品されていますよ。

物理療法機器に目が無いものですから、つい脱線してしまいました。

オークションの件はさておき、色々ご自身で行動してみて納得できたなら、どうぞ、EMSトレーニングを受けてください。

あなたのダイエットが成功することを祈っています。

 


 

いかがだったでしょうか。

私はEMSトレーニングを否定するわけではありません。ただ、寝転んで電気を流すだけで筋肉がモリモリついてくるとか、エネルギー消費が劇的に上昇するとか。そんな都合の良い話は無いということを知っていただきたいのです。

できる人は、ちゃんと身体を動かしましょう。そして食事の管理。基本はこれです。

きついことを申し上げるようですが、楽することばかり考えていては、何も変わりませんよ。

 

【参考】

*1 国立健康・栄養研究所. 筋肉が1kg増した時、基礎代謝量は何kcal増すのか?, http://www.nibiohn.go.jp/eiken/center/q_ener3.html

*2 藤本幸弘ら (2014). 電気的筋肉刺激(EMS)の生体内における実質エネルギー消費量についての検証 肥満研究, 20, 211.

*3 John P. Porcari, Jennifer Miller (2005). The effects of neuromuscular electrical stimulation training on abdominal strength, endurance, and selected anthropometric measures J Sports Sci Med, 4(1), 66-75.

 

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