第6回 ノルディックウォーキングフェスティバル(ノルディックウォーキング競技会) ―審査項目の「熟練度」について―

さる3月11日(日)、津市美杉は君ケ野ダム湖畔コースにおいて、「第6回 ノルディックウォーキングフェスティバル」が開催されました。私は今回も運営として参加。
例によってイベント全体のレポートは参加者のかたも書かれると思いますので、昨年に引き続き、今年もコンテストの審査項目について解説したいと思います。

目次

1.審査項目 ―熟練度―

さて、コンテストの審査項目は、「ウォーク準備」「歩行姿勢」「リズム」「熟練度」の4項目からなり、今回私は「熟練度」の担当となりました。
ノルディックウォーキングにおける熟練度。分かるようで分からない基準です。

競技規定には…

ノルディックウオーキングが「自分のものになっている」、「自分らしさがでている」等を高評価とします。

第6回 ノルディックウォーキングフェスティバル競技規定

と、あります。

そもそも参加者の“自分”がどんなものなのか、審査員の我々には知る由もないですから、“らしさ”などというのは何とも曖昧な審査基準です。
私はダイナミックなウォーキングを信条としていて、幸い体格も大きい方ですから、多少テクニックに荒っぽさがあっても、第三者には「自分らしさがでている」ように映るかもしれません。
これが逆に、しなやかで軽やかなフォームだったらどうでしょう。
審査する者によっては、「力強さが足りない。自分らしくない!」と、評価してしまうかもしれません。

私はそのあたりの曖昧さを回避するため、以下のような観点からも審査しています。

2.上肢の動き

ノルディックウォーキングは、専用のポールを用いて推進力を得るウォーキング方法です。
ポール扱いに関わる上肢の動きには最も注目しています。

(1)キャッチアンドリリース

ポールを突いたときにはしっかりグリップし、後方へスウィングしながら手の力を緩めているかどうか。“プル”タイプの人も同じです。
ポールを突いたときにしっかり握ることで、ガチッと路面を捉え、ポールの挙動が安定し、力を伝える方向を定めることができます。手を開いたままだと、路面にポールが弾かれることがあります。

なお、ここで述べる“しっかり”とは、路面にポールがはじかれないようにしっかりといった意味合いです。力いっぱいぎゅっと握りこむことではありません。自然な腕のスウィングに伴ってポールを突くならば、握る力は全力の2割程度で事足りるはずです。握力が強い方なら、それよりもずっと弱く握ることになるかもしれません。もちろんこれは、平坦な舗装路を歩く場合です。不整地や急な坂道であればもっと強く握る必要があるでしょう。誤解を招く表現ですので、注意事項として追記します。

(2)肩を基点としたスウィング

肘の曲げ伸ばしではなく、肩を基点とした大きな上肢の動きが好ましいです。
横から見た時に、肘が体幹より前あるいは後ろに位置するまで動いていて欲しいです。

(3)スウィングの大きさ

文字通り腕振りの大きさを見ます。
スウィングの人は前への腕振りが、プルの人は後ろへの腕振りがそれぞれ大きくなる印象です。

ときどき短めのポールを使っているかたがいらっしゃいます。
後ろまで大きく腕が振れているように見えても、前へのスウィングが小さかったり、ポールを突いたときの角度が立ち気味だったり、歩行速度が遅かったり、ピッチが速かったり。
すこし勿体なく感じます。
ポールの設定を短くするインストラクターがいることも存じていますし、それが有益な場面も想像できますが、私はそれを熟練した歩行とは認めません。せっかくなので、長いポールを使って大きなストライドで歩く姿を見せていただきたいです。

(4)ポールに力を伝えているか

どれほどスウィングがおおきくても、推進力を得ていなければ高評価には繋がりません。
とはいえこれは“ここを見れば分かる”というものではなくて、歩く姿を全体的に見て、前進する速度や距離と、手(拳・グリップ)の動く速度や範囲との関係性を手がかりとして判断します。
よっぽど極端でないと分からないのが正直なところですが、薄着の季節だと筋肉の動きで比較的判断がつきやすかったりもします。

肘を完全に伸展しなくても、腕振りの最後までポールを介して路面に力を伝えることができていれば問題無いと考えています。

後方局面で肩をすくめるような動作が入ると、力が上に逃げてしまいがちです。多くは肩甲骨や肩関節の可動域が狭い場合です。関節自体に問題があって動かないこともあれば、単純に出来ないだけのこともあります。単純に出来ないのであれば、明らかに熟練度が低いと言えます。

力みすぎている人は、肩が上がりやすく、肘も曲がりやすいように思います。当然、これではうまくポールに力が伝わりません。

3.下肢の動き

下肢の場合、ノルディックウォーキングならではというよりも、基本的な歩行の要素を評価するといった具合です。

(1)足部のローリング

踵から接地して爪先が地面から離れるまで、荷重は足部(足底)を転がるようなスムーズさで移動します。
踵の接地が衝突的であったり、足底がペタンと地面に音をたてるようではいけません。ブレーキがかかってしまいます。

(2)爪先の蹴りだし

足部のローリングの最後は、力強い爪先の蹴りだしで終わります。できていないと、いわゆるペンギン歩きになります。男性の場合はさらにがに股が入ってくることもあります。こうなると、左右の揺れが大きくなりますし、蹴りだしのスムーズさもさらに損なわれます。
「リズム」の項目と少し被りますが、左右の揺れが少ないことは「熟練度」においても重要な要素と言えます。

(3)ストライド

ポールを使って推進力を得ることができていれば、通常の歩行よりもストライドが大きくなるはずです。
通常歩行時のストライドがどれくらいか参加者毎に把握することは困難ですが、ランウェイ(?)のスタートラインまで歩いてくる姿も多少参考にしています。

4.体幹

ポールを有効に作用させるために。より前へ進むために。体幹が上手く働いているかを見ています。

(1)後傾姿勢はありえない

「歩行姿勢」の項目に入るかもしれませんが、身体を反らせて踵荷重になる姿勢はポールを押すことができ始めた段階にありがちなエラーです。ポールにもたれるというか、ポールによって得た推進力で腰だけが前に出ているというか。そんな姿勢です。
腕を十分に後ろまでスウィングしているように見えて、実は腰が前にスライドしているだけなどということもあり得ます。
いくらか前傾姿勢であることが望ましいです。

(2)回旋が生じているか

そこまで強度の高い歩き方をする必要があるのかという声も聞こえてきそうですが、コンテストで歩行するのは片道20メートルという短い距離ですので、その中でなるべく高いパフォーマンスを発揮していただきたいものです。

5.統合

ここまでお示しした1~3の内容が統合され、よどみなく、矛盾なく、ただひたすら滑らかな歩容が理想です。
審査員(私)はひとつひとつの項目をつぶさに観察しているわけではなくて、全体を見た時に違和感として浮き上がってくる部分を見ています。
“5”が出来ている、つまり、熟練度の高い歩行であれば、審査員は細かい要素に注目せずに済みます。もちろん、理想的なフォームを知っている者の眼で見ていることが前提です。

「自分のものになっている」とは、細かなテクニックが統合された状態であると、表現できるでしょう。

6.配慮事項

(1)性差・年齢による身体能力

パフォーマンスを発揮するという観点からなら、バウンディングやダッシュなど、高度で高強度なテクニックを披露すれば高評価に繋がるはずです。まだ一人も実行した参加者はいませんが、誰かやってくれないかなと、いつも期待しながら審査しています。

しかし、これはあくまでも“期待”です。

このようなテクニックは誰にでも実行できるものではありません。一般の女性や高齢者には極めて難しいです。ですから、ここまでする必要はありません。
年齢や身体能力に応じた、参加者自身の最高のパフォーマンスが発揮されることを望みます。

(2)その他

身体機能・構造の問題で、動作の左右差が出てしまう場合があります。手足の長さの違い、筋・関節の障害によってです。
これらはいくらウォーキングに熟練しても改善されるものではありません。むしろ熟練することで差が大きくなる可能性すらあります。
ということは、熟練するほど減点される?
いいえ。そんな馬鹿な話はありません。
「リズム」の場合とは違い、ハンディキャップによるウォーキングフォームの変化は減点対象としていません

また、ベアフットシューズを着用した際のウォーキングフォームの変化にも配慮しています。
踵接地でなくなったり、ストライドが狭くなったり、ピッチが上がったり。ベアフットシューズ着用の場合は、これらを減点対象にはしていません。

私はJNFAの所属ですが、他団体のウォーキングフォームに低い得点を付けるようなこともありません
スウィングでも、プルでも、ポールによって推進力を得ていれば良いと思います。(因みに競技会の審査員でJNFA所属なのは私だけです。)

配慮事項の要素はおそらく、「自分らしさ」の範疇と言えるのでしょう。

以上です。
細かいように思えるかもしれませんが、大切なのは、細かいテクニックが統合された滑らかな歩行ができていることです。
本エントリーが、ウォーキングフォーム改善の一助となれば幸いです。


さいごに余談ではありますが、今回の競技会で気付いたことを少し。

競技会ではタイムトライアルの直後にコンテストを行います。
タイムトライアルで前脛骨筋が疲労してしまい、足関節の背屈を保つことができずにペタンペタンと歩いてしまう参加者が見受けられました。恐らく同様の理由で、爪先によるけり出しが無くなった者や、前傾姿勢が損なわれてしまった者も。
タイムトライアルで全力を出せば出すほどコンテストでのリスクが高まるわけです。仕方ないと言えば仕方ないのですが、勿体なくもあります。
競技会ではタイムトライアルよりもコンテストの方に重きを置いていますので(競技規定をご確認ください)、タイムトライアルに力を入れすぎないことも戦略として考えてみてください。

また、腕振りの左右差がかなり大きい参加者がいらっしゃいました。振れていない側にハンディキャップがあるのなら採点を考慮しなければなりませんので、コンテスト終了直後に聴取させていただきました。
結果、“ただの癖”との返答をいただきましたので、そのように対処いたしました。
可能であればビデオ撮影したり大きな鏡に映したりなどして、ご自分のウォーキングフォームをチェックし、修正することも必要かと存じます。

勝ちたかったら、です。
私なら絶対、勝ちたいです。

注:今回お示しした基準はあくまで私個人の裁量の範囲で設定しているものです。ノルディックウォーキングフェスティバル公式のものではないことをご理解ください。

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