あしもと

30代の女性、Kさんが、20代前半の頃に体験した話。

ある夏の晩、疲れきった身体をベッドに横たえ、Kさんはいつものように常夜灯を点けて眠りについた。
どれくらい時間が経ったろうか。

グンッ。

足首を何者かに掴まれ、足先の方向へ引っ張られたことに気づいた。
とはいえ、いまいち状況がつかめない。自分は足首を引っ張られて目を覚ましたのか、それともまだ夢を見ているのか。

グンッ!

また引き下げられた。
今度は本当に、身体が足先の方向へずれた。この生々しさは現実だ。

「え、え。何なん?」

グンッ!

力が強くなっている気がする。
ベッドごと引きずられそうな勢いだ。
抵抗しようにも、なぜか体が動かない。動くのは目だけだ。
怖くはない。ただただ訳が分からない。

グンッ!

再び引っ張られたときだ。

「あ。お母さん!?」

Kさんは直感した。
というのも、当時Kさんの母親は大病で入院していて、かなり厳しい状態だったのだ。身体が疲れ切っていたのは、仕事と毎日の見舞いに加え、家事を一手に引き受けていたことも大きかった。
母親が最後のお別れに来てくれたのかもしれない。それならこの不思議な状況にも合点がいく。
さっさと起きろということか。豪快なところもある母親だ。なんとも “らしい” 行為に思えた。
Kさんは母の顔を見ようと、動かないながらもなんとか頭を起こして足下に目をやった。

しかしそこにあったのは、見たこともないおかっぱの少女の顔だった。

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