生まれたときから見えていたのか、何かのきっかけで見えるようになったのか。
霊をはっきりと目に捉えることができる人は、そのきっかけもはっきりとしているように思える。そんな話をうかがったので紹介したい。
Aさんが中学生だったころの話だ。
ある日の夕方、A少年は犬を貰っただか拾っただかしてきた。前々から飼いたいと思っていたのだ。親には後で話すとして、とりあえずどこかへ繋いでおこうと、家の裏庭へ杭を打ってロープで絡げた。
しかし親に話す間もなく、A少年は高熱を出した。最初はなんとなく熱っぽい程度だったが、あれよあれよという間に悪寒に襲われ立っていることもやっととなり、夕食前には布団に寝かされ医者を呼ぶ羽目にまでなった。(当時は救急車を呼ぶよりも医師に往診してもらうのが一般的だったようだ)
「今夜が山」
熱に浮かされるA少年を診察した医師は家族の方に向き直って告げた。
意識が無いかあっても朦朧としていたにもかかわらず、Aさんはその時の医師の声や布団に寝かされた自分の姿、狼狽える家族の様子を克明に覚えているのだと言う。
なぜならその時、A少年は天井よりも高いと思える位置から部屋を俯瞰していたのだ。
そのうち気づくと、A少年は真っ白な花の咲く、花畑の様な場所にいた。
なんて綺麗なところだろうと見まわしながら花園の一本道を進んでいくと、やがて大きな川が見えてきた。川岸で立ち止まり遠くの対岸に目をやれば、沢山の人が立っていて自分に向かって手を振っている。その様子はとても楽しそうに見えた。
「ああ、あっちに行きたいな」
そう思って歩を進めようとした矢先、
「おい!」
後ろから男の呼ぶ声が聞こえた。
はっとして振り向くと、そこには花畑ではなく見覚えのある天井と、自分のことを覗き込む家族の顔が見えた。A少年は意識を取り戻したのだった。
その少し前。A少年の祖母と母親は仏壇の前に座り、先祖に孫/息子を助けてくれるよう必死に拝んでいた。
すると突然、祖母が
「杭を抜けって聞こえた!」
仏壇から声がしたのだと言う。
なんとも突飛な話だが、今は信じるほかない。しかし杭なんて家のどこに刺さっているのか…。
A少年が犬を繋ぐために杭を打ったなどと知らない家族は家中を探し、ついに裏庭に打たれた杭を見つけ、引き抜いた。
その直後、A少年が目覚めたのだ。
不思議なことに、杭を見つけたとき、犬は繋がれていなかった。
そしてA少年が杭を打ったのは、敷地のちょうど鬼門に位置する場所だった。
この出来事をきっかけに、Aさんは人ならざるものをはっきりと目視することができるようになったのだそうだ。