2004年の春。
妻の実家の母屋で結納の儀を執り行った。
妻の実家は、敷地に蔵が2棟あったり田畑や山を所有していたり、おまけに曽祖父(?)が村長だったりと、いわゆる田舎の名家とでも呼ぶべき家柄で、母屋の太い柱や梁が “いかにも” な雰囲気を醸し出していた。
とはいえ儀式に堅苦しい雰囲気はなく、縁側のある南側の広間にて和やかな空気の中、滞りなく進んでいった。
儀式が終わると記念撮影をする流れになり、妻の弟がデジタルカメラで何枚か集合写真を撮影した。最後は市内の寿司屋へ移動して食事会をし、解散となった。
数日後。
現像に出していた写真が出来上がってきたのだが、そのうちの3枚に不可解なものが写っていることに気づいた。
結納の儀を執り行った広間には4畳半ほどの仏間が隣接している。当日は部屋を隔てるふすまが開けてあって、仏壇の扉も開いていた。
集合写真の端に見えるその仏壇の前に、球状の光……オーブらしきものがひとつ、写っていたのだ。
2枚目の写真には、1枚目よりも仏壇から少し離れてひとつ。 まるで仏壇から出てきたオーブがふわふわと進んでいるように見える。
さらに、最後の1枚。3枚目の写真だけは、すこし様子が違っていた。
オーブももちろん、2枚目より離れたところに移っていたのだが、それに加えてオレンジ色の光が放射状に写っていたのだ。 それはまるで、仏壇が光を噴出しているかのようだった。
「うわ。これは……」
寒気を覚える私をよそに、家族は、
「不思議な写真だね」
とか、
「ご先祖様がお祝いに出てきてくれたのかしらね」
と、和やかムードだった。
私もその場では話を合わせたが、正直、和やかムードどころではなかった。
なぜなら、オレンジ色は霊的な存在の怒りを象徴すると聞いたことがあったからだ。たしか、赤みが強いほど危険なのではなかっただろうか。
思い返せば、写真を撮る際もカメラの電源が落ちたりシャッターが下りなかったりしていた。義弟のおっちょこちょいな部分が出たのかと思っていたが、あれもいわゆる霊現象だったのかもしれない。
私たちの結婚は、まったく祝福されていなかったようだ。
結婚後も、妻の家では毎年正月に件の母屋で一族が集まる習わしがあり、私としてはなかなか辛いものがあった。 祖母と義父が亡くなった今では母屋に集まることもなくなり、ほっとしている。
(補足) 写真を撮影した際の状況に関して捕捉したい。
昼とはいえ、少し暗い古民家の室内だったので、おそらくフラッシュを焚いて撮影していたはずである。したがって、オーブに関してはホコリにフラッシュが反射したものと考えられる。 しかし、オレンジ色の発光に関しては説明がつかない。フラッシュの光を反射させるようなものは周囲に無いし、仏壇自体も金ピカな種類のものではなかった。
外からの光が入ってきているのなら、連続して撮影されたほかの2枚にも光が写り込んでいるはずだが、それもない。そもそも仏壇の方向には窓が無く、光の入ってくる要素は皆無だった。