おみくじ

「先生って、神社でおみくじ引きます?」

ある日の午後、患者のAさんからこう尋ねられた。

 

実は私、神様系は少し怖くて、おみくじを引いたりお守りを買ったりはしない主義なのだ。

「いやあ、私は引かないですね。おみくじが、どうかしました?」

 

すると、こんな話を聞かせてくれた。

 

T大社でのこと

さて、Aさんはある病を患って、大きな手術を経験している。

近々何度目かの手術を受けることになったのだが、今回は命にかかわる手術ではなく、生活のしやすさを向上させるような種類の手術で、ほんとうに今受けるべきなのかといった迷いもあった。

そのようななか、節目節目で参拝しているS市のT大社を訪れた。手術の成功祈願のためだ。

いつもお参りをするとおみくじを引くのが習慣で、この日もおみくじを引いた。

 

半吉

 

おみくじは良い順に大吉、中吉、小吉、吉、半吉、末吉…となっている。したがって、あまり良くない “目” を引いてしまったことになる。

しかも、

 

病 悪し

 

「あら…。」

手術前にこれは縁起が悪い。

もう一度引いて、良いのが出れば上書きされたことにしようと、再びおみくじを引いた。

 

半吉

病 悪し

 

おみくじにはそれぞれ番号が付されているのだが、その番号も同じ。完全に同じものを引き当ててしまったわけだ。

こんなこともあるのかしらと、もう一度。

 

半吉

病 悪し

同じ番号

 

二度あることは三度あるとはいえ、さすがに気味が悪い。

不安をぬぐうように、もう一度。

 

半吉

病 悪し

同じ番号

 

「ええ!?」

一体どういうことなのか。おみくじを箱に補充した際の混ぜ方が悪くて、同じ番号が固まってしまったのだろうか。

「ちょっと、あんた、引いてみてよ。」

同行者に引かせてみた。

 

 

「ああ、やっぱり固まっていたんだわ。」

これで大丈夫だろうと、もう一度引く。

 

半吉

 

しかし今度は番号が違う。

 

病 医者を選べ

 

それ以上は引かず、帰途に就いた。

 

「朝からこんなことがあって、憂鬱なんです。」

 

たしかに憂鬱だ

まさに数時間前に起きた怪異。そのあまりの内容に、肌が粟立ってしまった。

一体どう解釈すればよいのだろう。

このまま手術をすると “悪し” なのか、それとも中止すると “悪し” なのか。

迷っていることを何人かいる担当医の一人に相談したら、

「するなら今だと思う。」

と、言われて決断したとのことなので、これが “医者を選べ” だったのか。

手術を受けて経過良好なら、選んだ医者が正解だったということにもなろう。

「手術がうまくいって、『T大社すげえな!』って、笑えると良いですね。」

施術者としては、そう言うしかなかった。

 

後日談

数週間後。

無事手術を終えて退院されたAさんが、じねん堂に来院された。

 

「いやー、おみくじの件もあったし、無事に終わってよかったですね。」

「ええ。だからお礼参りに行ってきたんです。」

「まさか、おみくじ引きましたん?」

大吉が出たんです。しかも1番。」

「え、え? で、病は…。」

日を追って回復ですって。」

「う、わ。」

「本当、その通りだなって思って。」

「いやもう私、おみくじ絶対無理っすわ。」

 

まるで作り話のようにオチが付いたが、まぎれもない実話である。

信仰の厚いAさんにだからこそ、神様がドンピシャなおみくじを引かせたのかもしれない。

 

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