松阪市と多気町の境目、櫛田川と祓川の分岐点近くにこんもりとした低山がある。神山(こうやま)だ。
山頂への道筋には聖徳太子が建立したと伝えられる古刹があり、一般的には山号を冠して神山一乗寺と呼ばれる。しかし地元の私たちにとっては中学校の遠足のコースに入っている程度には身近な寺で、「こやまさん」と呼ぶことがほとんどだ。
身近な寺ではあるが、山頂に城があったことや、いわゆる駆け込み寺だったことも手伝ってか、穏やかでない話もいくつか噂されている。
たとえば寺に逃げ込もうとした女性が山門の直前で捕まって殺されたとか、その首を山道にある平らな石の上に晒したとか。
父の従兄弟のイズミさん(以前ひとだまの話で登場したイズミさんだ)も、若い頃に不思議な体験をしたと言う。
ある夏の日中に、イズミさんは神山さんまで遊びに行った。
九十九折れになった参道を登っていって、後2・3回折れれば山門というところまで来た時、赤い着物を着た少女の降りてくるのが見えた。前髪を切りそろえ、小学校1年生か2年生くらいだろうか。ひとりで山寺まで遊びに来ているとは考えにくい。
「寺の子かな?」
そう思いながら、イズミさんは登っていった。少女もそのまま降りてくるようだ。
そしていよいよすれ違おうというとき、イズミさんが少女に目をやると、少女もイズミさんのことを見上げてほほ笑んだ。
いや、違う。
口を歪ませてニヤリと笑った。
不気味な笑い顔にゾッとしたイズミさんは慌てて目を逸らし、進行方向に顔を向けた。
すると、参道に敷かれている黒い帯が見えた。九十九折れの参道を、上の方へ続いている。
「か、髪。女の髪や!」
思わず少女の方を振り返ったが、その姿も、もちろん髪の毛も、そこには無かったそうだ。
【おまけ】神山さんに行ってみた
せっかくなので、三十年ぶりに神山さんへ登ってきました。
津方面から行くのは初めてです。
県道701号が高架になる手前で側道を降ります。
すると、高架下に山道の入り口が見えます。決まった駐車場がないので、車はその辺に停めます。
入り口には杖が用意してありました。
毎日参詣される方もいらっしゃるのかな?
参道は結構ワイルドです。段差のある石段を九十九折れに登っていきます。
例の平らな石もありました。記憶よりもずいぶん小さいですが、首は一つか二つ置けそうです。
まもなく山門というところで、石段が石段らしくなります。
駆け込みに失敗した女性はこのあたりで捕まったのかな?
石段を登りきるとこじんまりした山門に到着。(少女には会えなかったですが、内心ほっとしています)
山門をくぐると庭園が広がっています。奥に見えるのが本堂。
石畳を押し分ける木の根と苔に歴史を感じますね。
それほど高く上ったわけでは無いですけれど、良い眺めです。
青い空と手入れされた庭に本堂が映えます。
本堂の正面には、先ほどくぐったものより立派な山門があります。
実は、神山さんの参道には東坂と西坂があって、今登ってきたのは東坂。正面の山門に通じるルートが西坂なのです。
せっかくなので、西坂も見てみましょう。
西坂の登り口は県道701号脇。
登り始めてすぐ、道を間違えたのかというような光景が広がっています。
ただの山道です。
土砂で押し流されたのか、石段が崩れているところもありました。
もはや獣道かという狭さも気にせず登っていくと…。
東坂によく似た石段が目に入るようになりました。
山門の手前はかなり立派な雰囲気。
やはりこちらが正面なのでしょうね。
急ぎ足で登ったので、ちょっとした運動になりました。